2013年4月19日金曜日

中国H7N9続報 感染ケースが87例に増加、厚労省がH7N9感染疑い患者への対応をまとめる、WHO Weekly Report 2など

中国H7N9の感染ケースが87例まで増加しています。

視察者「H7N9禽流感疫情最新消息:苏沪豫各增1例确诊病例浙江2例 全国共87例

  • 上海、江蘇省、河南省で患者が増えて、全国で87例となった。
  • 中国CDCの医師 Feng Zijianは、2例の家族クラスターは起こったものの、H7N9がヒトヒト感染を容易に起こすウィルスに変異したことを意味するものではないと強調した。


薬事日報「【厚労省】鳥インフル(H7N9型)疑い患者の対応まとまる

  • 標準的対応では、医療機関を訪れたインフルエンザ様症状の患者が、▽38℃以上の発熱と急性呼吸器症状がある▽臨床的または放射線学的に肺炎や急性呼吸窮迫症候群(ARDS)が疑われる▽発症前10日以内に中国への渡航または居住歴がある――の要件を全て満たした場合、医療機関は保健所に患者の情報を提供する。


WHOが Weekly Report 2を発行しています。
Number of confirmed human cases for influenza A(H7N9) reported to WHO

以上。

2013年4月18日木曜日

中国H7N9続報 感染例が82ケースに、家禽と接触の痕跡がない患者、遺伝子解析結果など

感染例が82ケースに増加しています。

四川在线「中国已确诊82例H7N9禽流感病例 其中死亡17人

  • 中新社北京によれば、17日夜時点の感染者は82ケースに増加した。
  • うち死亡例は17ケース。
  • 国家衛生家族計画委員会によればヒトヒト感染の兆候はいまだにない。


家禽類に接触した痕跡がない患者が約40%いるとの報道が出て来ました。家禽と接触していないのであれば、空からウィルスが降ってきたのでしょうか。国家衛生家族計画委員会の発表とは真っ向から対立する内容です。

ロイター通信「中国の鳥インフルで死者16人に、政府は感染拡大の可能性を警告


  • 新京報は17日、中国疾病予防制御センターの曽光・首席専門家(流行病学)が感染者の約40%が家禽類に接触した明らかな形跡がないと指摘したと伝えた。「どうやって感染したのか謎だ」との発言が引用されている。
  • 中国疾病予防制御センターはロイターの取材に対してコメントを拒否した。

今後の報道で事実が明らかになることを期待します。


続いてNIIDが掲載している論文の翻訳より。H7N9の遺伝子解析の結果、ヒト感染がしやすい変異が起こっていることが判明しています。

[論文要約] 2013年2月から4月にかけて中国の患者から分離された新種の鳥インフルエンザA(H7N9)ウイルスの遺伝子解析

  • HAレセプターのヒト型受容体への結合性と、哺乳動物における効率的な複製をおそらく制御しているPB2 RNAポリメラーゼサブユニットにおけるいくつかの特徴的なアミノ酸変化(特にE627K)は、新型ウイルスがパンデミックになる可能性があることを強調するものである。


ソースに添付されていた表の文字が小さくて見づらかったので、一部の内容を転載しました。説明をご覧いただければわかるが、ヒトのレセプターに結合能力が上がる(ヒト感染しやすい)、NA阻害剤への感受性が上がる(タミフルが効きやすい)、マウスへの病原性が上がる(哺乳類で重症になりやすい)、などの特徴が見て取れます。

今後も変異がトラッキングされると思いますので、結果を注意深く見守りたいと思います。

2013年4月17日水曜日

中国H7N9続報 感染例が77人に増加、H7N9はステルス型インフルエンザ、など

感染ケースが1日で急増しています。

新华新闻新型禽流感确诊77例 专家称病例数可能继续增加

  • 中国の国家衛生家族計画委員会発表によれば、15日(月)6:00amから16日(火)20:00amまでに、14人の新しい感染例が増加し、上海で2人の死者が出た。
  • 濃厚接触者は経過観察におかれているがいまのところ異常はない。
  • 依然としてヒトヒト感染は見つかっていない。


次の記事はちょっとした衝撃だ。H7N9は、中間宿主の動物には弱毒性だが、人には強毒性を示す、最初のインフルエンザウィルスとのこと。いままで私は、このウィルスが強毒性に変異した痕跡およびを探してきたが、そんなものは最初からなかったらしい。

日経メディカルオンライン要注意! H7N9はステルス型インフルエンザウイルスだ

  • 今までの新型鳥インフルエンザウイルスの対策は、暗黙の前提として鳥などの中間宿主に対しても強毒性のウイルスを想定していました。鳥や豚などの大量死の報告を受けて、ヒトへの感染を防御する対策を打つ、というのが防疫の手順でした。ところが今回のH7N9はこうした常識を裏切るものだったからです。
  • WHOによれば、近代的な疫学研究が始まって以来、H7N9は鳥などの中間宿主に対して弱毒性インフルエンザウイルスがヒトに感染し、強毒性を示した初めての例となりました。つまり、H7N9は一種のステルス型の新型インフルエンザウイルスなのです。

この事実はつまり、鳥や豚などの大量死をトリガーにしたウィルス封じ込めや防疫体制がとれないことを意味している。また、いまのところ感染源となっている鳥がわからないので、日常生活のなかで警戒することも難しい。

いままで新型インフルエンザは、ヒトヒト感染が起こってから広まると考えられてきた。しかしこのウィルスに限って言うと、気が付かないうちに感染した鳥が日本に飛来し、突然日本国内で人の感染者が現れ、警戒する対象もわからないままじわじわと感染拡大するということも起こりうる。

困難ではあろうが、一刻も早く人への感染経路を明らかにして欲しい。

2013年4月15日月曜日

中国H7N9 WHOのリスク評価、OIEのQ&A、CDCの中国旅行者・居住者向けガイド

まずはWHOのリスク評価について簡単な要約。

インフルエンザA(H7N9)ウイルスのヒト感染に対するWHOのリスク評価

  • 人に感染しやすい遺伝子変化があり、他の鳥インフルエンザより感染しやすい可能性がある。
  • タミフルとリレンザに感受性があり(効きやすい)、抗ウイルス薬のアマンタジン、リマンタジンには抵抗性がある(効きにくい)。
  • 鳥に対しては低病原性である。中国での家禽への感染は確認されているが、その他の飼育されている鳥類、野鳥、豚などの自然宿主に関しては解明されていない。
  • これまでのところ、このウイルスは家禽の重篤な病気との関連はない。
  • 持続的な人から人への感染例は見つかっていないが、家族クラスター(患者の集積)の事例が2例あり、濃厚接触のありうる家族間や医療従事者に起こり得ることを示唆している。
  • 本事例に関する入国での特別なスクリーニングの勧告や渡航、貿易の制限を推奨するものではない。

現状、国内では情報収集を除いて特別な対応を必要としないと思われる。後述するように企業・組織のメンバーが中国に渡航するに際しては、注意喚起が必要と考えられる。


次にOIEのQ&Aより。「インフルエンザA(H7N9)に関する質問と回答


  • 野鳥はインフルエンザA(H7N9)ウイルスのキャリアとして同定されているのでしょうか?
  • 野鳥は、通常、呼吸器や腸管で鳥インフルエンザウイルスを運ぶことができますが、野鳥自身は一般的に症状はありません。野鳥は、鳥インフルエンザウイルスの感染源および媒介動物として歴史的に知られています。世界中で、野鳥における鳥インフルエンザウイルスの発生と特徴を監視するためのサーベイランスの仕組みが設置されています。野鳥では、通常の検査において、特定の種類のインフルエンザウイルスを見つけるための作業が行われています。これらのウイルスの大半は野生の鳥においては症状を起こしません。今日まで、インフルエンザ(H7N9)は、中華人民共和国の野鳥からは発見されていません


鳥には低病原性のため、キャリアの特定が難しいということ。これはつまり、対策が困難であることを示している。


続いてCDCの中国旅行者・居住者向けガイド。「What can travelers and Americans living in China do to protect themselves?


  • 鳥、豚、その他の動物に手を触れてはいけません。
    • 生死にかかわらず動物に手で触れてはいけません。
    • 生きている鳥、鳥市場からは遠ざかってください。
    • 動物のいる市場や農場に行くことは避けてください。
  • 完全に火の通った食品を食べてください。
    • 鳥類の肉は完全に火が通っていて(ピンク色の肉は避ける)熱い状態のものを食べてください。
    • 卵は固茹でを食べてください(半熟は避ける)
    • 動物の血が混じった飲食物は避けてください。
    • 路上の屋台での食事は避けてください。
  • 衛生状態を保ってください。
    • 手を頻繁に洗いましょう。
    • 手が衛生的だと確信できないときに、目・鼻・口に触ってはいけません。
    • 咳やくしゃみをするときは、ティッシュか袖で口・鼻を覆いましょう(手で覆ってはいけません)
    • 具合の悪そうな人と、ハグ、キス、カップや食器をシェアすることは避けましょう。
  • 中国旅行中あるいは旅行後に具合が悪くなったら医師にかかってください。
    • 熱、咳、呼吸の切迫などで具合が悪くなったらすぐ医師にかかりましょう。
    • 完全に回復するか、医師の許可が出るまで帰国は延期してください。
    • 帰国後に熱、咳、呼吸の切迫などで具合が悪くなったら、すぐ医師にかかり、中国の旅行から帰国した旨を告げてください。


以上。

中国H7N9続報 感染ケースが60例(うち死亡13例)に、WHOの Weekly Report など

6時間ほどニュース・ウォッチから離れていたら、さっそくアップデートがあった模様。


サーチナ中国でH7N9鳥インフル感染急増60人、死亡は13人

・中国政府・衛生と計画出産委員会は14日、同日午後5時までに確認されたH7N9鳥インフルエンザ感染者と死者の累計数を発表した。感染者数は前日の49人から60人に増加した。死者は2人増えて13人になった。

こちらでも同じ情報。新しい罹患者の詳細な情報あり。

視察者H7N9最新:上海新增3例 全国共60例

上海の新しい感染者は54歳〜78歳の比較的高齢な3人、いずれのケースも初期の発熱から病院でまともな治療を受けるまでだいたい3,4日かかっている。やはりインフルエンザ治療には初動が重要。

CDCがH7N9感染者が発見された場合の暫定ガイダンスを出している。なおこの中では今回のインフルエンザを「Novel Influenza A (H7N9)」つまり新型インフルエンザと言い切っている。臨戦態勢ということだろう。

Interim Guidance on Case Definitions to be Used for Novel Influenza A (H7N9) Case Investigations in the United States

WHOが先週からWeekly Reportを出している。今後、アップデートされていくだろうから、組織内でのブリーフィング資料として使えると思う(画像にリンクを貼ってあります)


以上。

2013年4月14日日曜日

中国H7N9短信 感染例が51例に、河南省でも2例

中国H7N9の感染例が少しずつ増えている。ヒトヒト感染が確認されていないのに、地理的に広範囲なエリアで感染が広がっていくということは、ウィルスを持った野生動物が広めているということだろうか?

光明网「确诊51例 死亡11人」

・14日午前10時発表の感染例は51例に増加した。

CRI Online「鳥インフル、河南省でも初の感染 男性2人」

・いままで感染例がなかった河南省でも新たに2例が判明した。


大きな地図で見る

地図を見ると、少し北に広がっているようだ。


2013年淡路島地震は南海トラフ地震の前兆か?

このたびの淡路島の地震は、学者のあいだで「阪神淡路大地震の余震」「南海トラフ地震の前兆」など、さまざまな意見がでているようです。

阪神淡路大地震を持って、西日本が地震の活動期に入ったと指摘する研究者グループがあります。実際のところはどうなのでしょうか?

「地震の日本史」という本で、M8〜9クラスの地震とその前兆・余震が繰り返されることを指摘している、寒川先生の説をご紹介したいと思います。

今日の動画(私の手製)は、最近の講演でときどき使うKeynoteファイルの一部を動画にしてYouTubeにアップしてみました。ページめくりが少し早すぎるかなと思いますが、みなさまのご意見を伺いたく。今後、このような動画を増やしていこうと考えています。



中国H7N9短信 北京の患者の治療過程

中国・北京のH7N9患者の回復過程が配信されている。症状が出てすぐに抗ウィルス剤の投与を受けたことにより、早期回復していることがうかがわれる。H7N9のケースで事業継続策を考える上での貴重なヒント。


・女児は11日木曜日の朝に、インフルエンザの症状=発熱、咳、喉の痛み、頭痛などを示した。

・女児は11日木曜昼頃に首都医科大学附属北京地坛医院に連れて行かれ、肺への感染により入院した。タミフル投与、静脈持続点滴などの治療が行なわれ、同日夜には症状が悪化したためICUに入った。

・酸素吸入その他の処置により、呼吸の逼迫や咳などの症状が大幅に緩和され、40.2度あった熱も37度まで下がった。

この記事で書かれている「肺への感染」が、H7N9ウィルスの感染を現しているのかどうかについて、詳細な記述がないためわからない。東大・河岡先生のセミナーで伺った話だが、季節性インフルエンザが肺感染することはなく、強毒性インフルエンザのひとつの指標になるとのこと。今後も注意して状況を見て行きたい。

中国H7N9短信 北京初の患者の様子、49ケースの感染ケースが確定など

中国の国家衛生家族計画委員会発表によれば、12日17:00pmから13日17:00pmまでに新たな感染6ケースが加わり、合計の感染者数が49ケース(うち死亡例11ケース)になった。

新聞「国家卫计委:H7N9病例仍然散发 未现人传人证据」

そしてこれは北京初の感染者、7歳の女の子の治療の様子。こんな写真が出てくるところがやはり日本と違うところ。

中国H7N9写真 患者の治療中の様子など、人民日報より。


「こういう写真は、日本の報道では見ることは出来ないだろうなぁ」と思った写真を転載させていただきます。リンク元は人民日報です。本当は画像リンクで引っ張りたかったのですが、なぜかブログが表示してくれないので、ダウンロード画像を転載です。

http://j.people.com.cn/mediafile/201304/10/F201304101441131838827868.jpg
N7N9患者の治療の様子。日本だったら個人情報とか
肖像権とかの問題で開示されない画像と思われます。
治療に当たっている職員は厳重な防護をしています。

http://j.people.com.cn/mediafile/201304/10/F201304101441131103684931.jpg
防護服は厳重ですが、隙間から渡している書類はだいじょうぶ?
手袋に付着したウィルスをそのまま渡していないかとか心配になりました。

http://j.people.com.cn/mediafile/201304/10/F201304101441132144229131.jpg
防護服をきちんと隙間なく着る技術をガウニング・テクニックと言います。
衛生の専門家によれば、実は着ること=ガウニングより、危険なウィルス等で
汚染された防護服を脱ぐこと=デガウニングの技術のほうが難しいとのこと。
この手順書も、いちおう全て書いてあるようですが、肝心のスタッフが、
デガウニングの技術を持っていないと、ただの気休めの張り紙になります。
だいじょうぶだと思うけど、上の写真を見ちゃったので、ちょっと心配・・・。

http://j.people.com.cn/mediafile/201304/10/F201304101441132503919429.jpg
H7N9患者の、肺のCTスキャン画像を見る医師。
これもなかなか日本ではお目にかかれない画像です。

以上。

2013年4月13日土曜日

中国H7N9短信 北京で初の感染者確定、現在44人の感染者(11人死亡)

今回の内容は、私が中国の報道に気づくのが遅かったので、既に日本のメディアからも報じられています。

読売新聞「H7N9型鳥インフル、北京で初の感染確認」

・中国の北京市は13日午前、同市内で入院中の7歳の女児が、鳥インフルエンザ(H7N9型)に感染していたと発表した。
・女児は同市東北部・順義区在住で、両親は生きたニワトリなど鳥類を販売する仕事に就いていた。女児は11日に発熱などを訴え、12日午後に感染の疑いがあると診断されていた。容体は安定しているという。
・これまで感染者は上海市周辺の中国東部に限られていたが、首都北京で初の感染確認となった。中国の感染者は、死者11人を含む計44人となった。

早期に治療が受けられているので、抗インフルエンザ薬に効果があったと思われる。最初のうちは30代、40代の罹患者だったのだが、さいきんの報道では新たに見つかるケースのほとんどが高齢者で子供が少しいるという状態。


2013年4月12日金曜日

中国H7N9 対策策定にあたって:2009パンデミックとの共通性

私が代表を勤める(株)レックスマネジメントでは、2008年秋に新型インフルエンザ対策の策定をお客様から依頼され、以後、国立感染症研究所の研究者や大学の先生に教えを乞いながら勉強、研究、対策作りを行なってきた。

当初は何をどうしたら強毒型H5N1新型インフルエンザに対抗できるものやらさっぱりわからず、しばらく暗中模索していたのだが、あるときパッと眼前が開けるようにモノゴトの整理がついて、楽ではないものの対策は可能だということに気づいた。インフルエンザはけっきょくというか、やっぱりというか、どこまで行ってもインフルエンザである。

そのときの経験から言うと、今回もやるべきことに本質的な違いはないと考えている(対策レベルの違いは当然ある)。今日からそれをお伝えして行こうと思う。

まず最初に、A/H1N1パンデミックとの、現時点での共通性について述べておきたい。

共通点(1):初期の感染は十分な治療が受けられない層で起こる。

前回パンデミックの時は、初期の感染はメキシコシティーの貧困層のなかで起こった。メキシコは国民全体の約50%が年収200ドル以下、さらにその半分の人たちは年収100ドル以下の収入しかないと言われている。

これらの人々が仮に病気になって高熱を出しても、毎日の収入が途絶えるとその日から家族が飢えるので仕事に出続ける。しかも病院に行くと数百ドルの治療費がかかるので、まともな治療も受けずに、である。A/H1N1のときに、初期の患者の死亡率が高いのはこういう背景があった。発生当初の死亡率は95%と言われている(文藝春秋2009年7月号記事より)

日頃から栄養状態が悪く、免疫レベルが低いであろうと想像される人々が新しい型のインフルエンザに罹ったらどうなるか、素人でも想像がつく。そして実際その通りになった。広まるにつれて政府も広報に力を入れ、人々は病院に行くようになり、全世界に広まるころには死亡率は通常の季節性インフルエンザよりも低くなっていた。

さて、今回はどうか。

関西福祉大学・勝田先生のブログ「H7N9型鳥インフルエンザ感染者の社会的属性から見えてくるもの」から引用させていただく。
今回感染者となっている階層は、症状発生時の認識・知識レベルにも懸念すべきものがある。上海での死亡患者が働いていた市場で取材した毎日新聞記者は「鳥インフルエンザなんて名前を聞いたこともない。風邪をひいて死ぬなんてよくあることだ。心配なんかするわけがない」という信じられないコメントを引き出している。さらに、これらの層は医療機関に受診してもわれわれの想定外の扱いを受ける可能性もある。たとえば上海第五人民病院での死亡例では、最初の2日間、生理的食塩水の点滴だけで帰宅させられている。
ここ数日、中国国内の報道を読んでいると、同様にかなり詳しい罹患〜治療の過程が書かれているものがあるのだが、ほぼ同様である。

熱が出ても病院に行かない。高熱が出て2日も3日も経ってタミフルも効かない時期になってようやく病院に行き対症療法を受けて帰って来る(おそらく解熱剤か何かをもらうのだろう)。その後、重篤な肺炎を起こして呼吸が切迫したあたりで初めて集中治療室に担ぎこまれるが手遅れ。そのような記事をいくつか読んだ。これが共通点その(1)。


共通点(2):感染症対策は後追いになりがち

今回もPreventive・防御的なアクションを取ることの難しさが浮き彫りになっているように思う。いまのところヒトヒト感染が起こってないとのことだが、だとすれば感染源はほぼ豚か鳥に限られるので、そこで初期の対策はいろいろやれたはずなのだ。

感染症は広まってみないと現象として捉えられない。その難しさは重々承知している。中国政府の対応を批判するのは簡単なのだが、それでも「何かがわかった」時点で取れる対策はどんどん実施していかないと、どんどん後手に回ることも事実である。

WHOは中国政府の対応を「模範的」と持ち上げていたが、反面、情報統制にやっきになる政府のアクションも徐々に報道が増えてきている。対策の後追いはしばらく続くだろう。


そして以下は推測:

推測(1)軽症患者がたくさんいる。

おそらく軽症ですんだ患者がたくさんいる。医療費にお金を払わない/払えない層で起こっているという事実を鑑みるに、病院に行くこともなく治ってしまった人が相当数いるはずである。実際前回のパンデミック発生時のメキシコでも、同様の事情で実際の患者は数倍〜10倍いるだろうと指摘する専門家は多くいた。

推測(2)動物の間で感染拡大している。

ヒトヒト感染が起こっていないのに、これだけ広範囲・散発的に感染が起こると言うことは、かなりの家畜・家禽・野鳥のあいだでH7N9が感染拡大しているだろう。

感染ルートをたどり、感染源を突き止め、それを封じ込めるためのProactive・率先した行動を起こす。初期のアクションについては、やはり感染症対策の原則が重要であることがわかる。

さて、現状がある程度わかったところで、われわれは次に何をすべきか?

また時間を見てアップします。

2013年4月11日木曜日

中国H7N9短信 35ケース目の症例確定

4月11日午後、35ケース目のH7N9感染者が確定。

星島環球網「全国确诊35例H7N9病例 官方再作重要部署」

以上。

中国H7N9短信 感染ルートのミッシングリンク

中国でH7N9が発生して以来言い続けてきたが、今回の感染拡大の背景としてどうにもわからなかったことが2つある。

(1)弱毒性だったはずのH7N9が強毒性になった理由
(2)人への感染ルートがわからない


今回の感染拡大のミッシングリンクがこの2つだった。

そして昨日の夕方、どちらの答えにもなる情報がようやく出てきた。しかしながらソースは大紀元なので、いつものことながら当ブログでは真偽の判断は避ける(中国政府オフィシャルの情報とどっちの信憑性が高いんだ?と訊かれたら・・・ですけどね:笑)


・家畜や家禽への大規模感染は昨年末からすでに中国の一部地区で発生していたが、当局は公表していなかった。それが今回「ついにヒトへの感染に発展して、隠しきれなくなった」と述べる一方、当局が発表するデータは改ざんされており信用できないとも指摘した。

・「中国国内では、鳥インフルエンザが毎年発生している。H7N9型ウイルスは長年の遺伝子変異の結果だ。そして今回、ついにヒトへの感染に発展した

・同氏の情報では、昨年4月から5月にかけて、河北省石家荘市で発生した鳥インフルエンザは最も深刻で、家畜の死亡率は80%に達したという。また、昨年12月頃から、河南省や、山西省、陝西省などの各地で、ニワトリの鳥インフルエンザが大規模に発生し、陝西省では約50%が病死または殺処分された。

・「当局はこのことを公表せず、報道もしなかった。20数年来で、これほどの感染は初めてだ」

前述のように真偽の判断は避けるが、真実であるとすれば、これこそが文字通りのミッシングリンクである。

中国H7N9短信 感染例33ケースに増加(死者9名は変わらず)

感染例が33ケースに増加しています。

人民日報「全国共报告33例确诊病例 上海一患儿治愈出院」20134/11 07:52am

・中国の国家衛生家族計画委員会発表によれば、感染確定例は本日33ケースに増加している。
・上海(15ケース、死亡5ケース)、江蘇省(10ケース、死亡1ケース)、安徽省(2ケース、死亡1ケース)、浙江省(6ケース、死亡2ケース)となっている。

・確定例同士のあいだで感染があった兆候は見つからず、濃厚接触者は経過観察措置が取られているが現状では異常は見つかっていない。ヒトヒト感染の兆候は依然としてない。

以上です。



2013年4月10日水曜日

中国H7N9続報 感染確定患者は31人(死者9人)に

本日は感染例が増えたニュースがちらほら。感染源や感染ルートは以前不明のままです。不思議なこともあるものです。まるでウィルスが空から降ってきたかバラまかれたかしたような印象。

中国新闻网「中国确诊31例H7N9病例9人死亡各地全天候监控」4/10 15:07pm

・4月9日、浙江省杭州市にある病院で、人々はH7N9インフルエンザの罹患を防ぐ為に、中国の伝統的な風邪薬である香囊を買い求めていた。


・4月10日、北京の「中新网」は、H7N9の31人の罹患者、9人の死亡者を報じた。
・江苏省の当局発表によれば、新しい患者のひとりは70歳男性、現在は重篤、濃厚接触者は18人。
・もうひとりの患者は74歳男性、同じく重篤、濃厚接触者は13人。
・疫学調査の結果によれば、H7N9感染が確定したケースはそれぞれ接触はなく独立しており、引き続きヒト−ヒト感染の兆候は認められない。

筆者注:
・この写真の香囊ですが、もしかしてタミフルの原材料である八角が詰まってるのかしらん?などとおバカな想像をしました。英訳ではよく読み取れなかったのですが、漢方薬が詰まっているようです。
・ご老人の罹患者が目立ちます。体力、免疫力の弱い高齢者の罹患と言う意味ではわかりやすいのですが、逆にインフルエンザにかかりやすいと言われる子供の例がないのはちょっと不思議です。

2013年4月9日火曜日

北朝鮮ミサイルからの退避行動など

中国のH7N9に気を取られている隙に、北朝鮮がミサイルを日本に向けて明日撃つなどと言い出している。発射の目的も目標も予測するのは難しいが、何が起こっても対応できるようにしておくのが危機管理。いまからでも出来る準備を3つ書いておく。

(1)リアルタイム情報の収集体制
(2)退避行動の基礎(UUUの法則)
(3)退避行動の開始/待機解除のタイミング


順番としては、情報収集>警報>退避>待機>待機解除の順番で考える。

(1)リアルタイム情報の収集体制

ミサイルが打ち上げられてから日本の国土にどれだけの時間で到達あるいは通過するか、着弾目標やコースによって変わるので予測は難しいが、ひとつだけ言えるのは「数時間」ではなく「数分程度」のオーダーである可能性が高いということ。つまり発射が確認されて、仮に日本国土が目標だった場合は対応する時間がほとんどない。

J-ALERTシステムからの防災無線の警報、テレビ・ラジオの臨時ニュース、首相官邸からのLINEメッセージなど、リアルタイムで警報が届く仕組みと、それを組織に伝達する仕組みは事前に構築しておきたい。


(2)退避行動の基礎(UUUの法則)

いままで日本近海を飛んだミサイルに兵器は搭載されていなかったが、今回もスカミサイル(スカッドではない)かどうかは予断は許さない。NBC(核・生物・化学)兵器が搭載される可能性、兵器は搭載されていなくても迎撃されたミサイルの破片が落ちて来る可能性、あるいは原因はわからないが退避行動が必要になる可能性がある。

以下、米国のCERT(Community Emergency Responder Team)と呼ばれる市民レベルの危機対応マニュアルから初歩の対応をご紹介する。CERTの教科書によれば退避の原則は「UUU」と言われる。

Upwind:風上に逃げる。
Upstream:上流に逃げる。
Uphill:高い方へ逃げる。

また、BC兵器が搭載されていると考えられる場合、出来るだけ建物の奥深くに迅速に退避する。そして以下のシールディングを行なう。

・換気装置を切る。
・窓やドアなどを事前に用意・カットしたガムテやビニールなどで目張りする。
・ラジオ等で状況をモニターする。
・消防や専門家などの安全宣言を待ってシールドを解除する。
・安全宣言を待って室内の換気を行なう。

核爆発と思われる閃光を感じたときは、以下の対応が薦められている。

・出来るだけ身体を平らにして地面に伏せる。
・距離が遠い場合、30秒程度の避難時間が得られる可能性がある。
 できるだけ早く、出来るだけ奥深く、建物の中に入る。
・爆発地点と自分を隔てるためにありとあらゆる壁を作る。
 地面、コンクリート、本など何でも良い。
・避難や治療の必要性がない限り、放射線を避ける為に2、3日立てこもる。



(3)退避行動の開始/待機解除のタイミング

・退避開始はJ-ALERT連動の防災無線、テレビ・ラジオの速報で。
・ミサイルの落下、通過、その結果の影響が判明するまでは基本的に屋内に留まる。
 ただし火災からの退避や治療の必要性が生じた場合は除く。
・待機の解除も基本的には公的機関からのアナウンスを待つ。

いまからお金をかけずに準備できることを列挙してみた。それにしても地震や新型感染症だけでなく、隣国からのミサイルまで注意しなければならないとは。実は紛争地帯に住んでいるんだということを実感しますね。

中国H7N9短信 感染例が24ケースに増加、うち死亡例は7ケース

速報です。

人民日报「江苏新确诊3例人感染H7N9 全国共24例」
上海で新たに3ケースの感染例が見つかる、合計24ケースに(死亡例が7ケース)

・64歳、リタイアした男性。
・4月1日、悪寒を感じ自分で投薬。体温は計測せず。
・4月3日、39℃の発熱で来院、急性肺炎の診断、対症療法を実施。
 なお記事には書いていないがこの日は帰宅した模様。
・4月7日、呼吸が切迫、9:15amに来院、重篤な肺炎と診断される。
・4月7日、18:45pm死亡。同日夜上海CDCの検査でH7N9ポジティブが判明。
・4月8日、濃厚接触者4人が経過観察中、現時点で異常なし。

なお回復したケースも報じられています。H7N9が弱毒性であることの可能性を記事では示唆しています。

・上海、4歳の子供、H7N9ポジティブ、現在回復の途上にあり。
・H7N9が軽い症状で済む可能性を示唆している。

以上。

中国H7N9 4月8日続報 情報の信憑性が低い状況は変わらず

H7N9の続報をお伝えします。相変わらず中国からの情報の信憑性が100%でない中で、事実情報の把握につとめています。以下に各種ニュースのリンクを貼ってご紹介していきますが、報道によれば、感染者の数は中国当局の発表より多い可能性が指摘されています。

(1)感染は拡大中、予断は許さない状態


・WHOの最新のアップデートから(4/07)
Human infection with influenza A(H7N9) virus in China - update
・21のケースでH7N9感染が確定、6人が死亡、12人が重篤、3人が軽い症状。
・タミフルとリレンザは治療薬として有効。

・台湾に感染拡大の可能性
台湾发现5例疑似H7N9流感 3例昨天已排除
・5人の感染が疑われていたが、3人は感染していないことが判明、2人は検査継続中。

・香港に感染拡大の可能性
香港收到9宗疑似H7N9禽流感病例 已排除2宗
・9人の感染が疑われていたが、2人は感染していないことが判明、残りは検査中。


(2)感染源はウズラ?(やや疑わしい内容)

FNNニュース 中国・鳥インフルエンザ ほぼ同型のウイルスを広範囲で検出
・上海から得た鳥類738のサンプル検体から19のH7N9感染を発見。
・検査をしたサンプルは、上海市内の3カ所の市場の鶏やハトから採取したもの。
・上海に隣接する浙江省杭州市の感染者が、市内の商店でウズラを買って肉を食べていたことから、地元当局が調べたところ、この店のウズラから、H7N9型のウイルスが検出された。

この感染経路は、やや疑わしいと言わざるを得ない。過去、食肉から鳥インフルエンザに感染したケースは世界でひとつも知られていない。本当にこのウズラが感染源なのかどうか、きちんとした調査の結果を知りたいところだ。そして感染経路によって、注意すべき対象や現地の対策が変わって来る可能性がある。


(3)感染者はもっと多い?(真偽の判断不能)

大紀元 鳥インフルで3人目の死者 ユーザーら、政府情報に疑いの目(4月4日)
筆者注:ご紹介はいたしますが、筆者は真偽の判断を行ないません。

・微博(中国版ツイッター)上では、当局が発表した感染例以外の感染情報も流れている。3日午後、ユーザー・蘭調絲語は、「うちの病院の救急患者がたった今、鳥インフルで亡くなった。私は同済大学同済病院にいる」と投稿。しかし、この投稿は間もなく削除された。
・3月24日にもユーザー・硬木花道による死亡情報の書き込みがあった。「発熱外来には、ここ数日、原因不明の肺炎患者が来ている。死亡率は極めて高い。6人中5人が亡くなっている。疾控センターはなぜ動かないのか? 医者や患者を守る責任があるはずなのに」。この投稿も現在、削除されている。

真偽の確認ができないので、この記事の信憑性の判断は読者各人にお任せする。このような記事が出る一方で、中国語に堪能な知人によれば微博(中国版ツイッター)上での流言飛語がひどく、嘘の情報を流した容疑で逮捕者まで出ているという。


(4)そして現地からのリポート

上海へ出張中の知人・松田壮逸さんによれば「夜は南京東路では大音量でオバハン達が整列して踊ってて笑えるけどうるさくてジャマだぁ〜」だそうです。南京東路とは日本で言えば銀座のホコ天のような目抜き通り。マスクをしている人は松田さんのみ、中国市民は何事もないかのような生活をしている様子(踊ってるおばちゃんの写真も松田氏)


罹患すれば死ぬような病気の流行の兆しがあるというのに、これは感染症に対する知識レベルの低さから来ているのではないかと想像している。この写真を見て、私はある予測を持ったのだが、それは明日また書きます。

2013年4月4日木曜日

中国のH7N9をめぐる3つの不自然なこと


3日前から上海でのH7N9をめぐる報道が徐々に加熱してきている。私は危機管理の専門家として、また事業継続の専門家として新型インフルエンザを研究してきたので、この感染症については少しは知識がある。前回のH1N1騒ぎのときは東大理Ⅲを出た医者にインフルエンザの講義をしてあげたぐらい(笑)

冗談はさておき、今回の報道には3つの不自然さがある。どうもおかしな騒ぎに発展しつつあるので、いまのうちに指摘しておきたい(長文です)

【不自然その1:H7N9由来の鶏・豚の大量死がない】

今回もっとも不思議なのは、関連しそうな鶏や豚の大量死の事実がないことである。「いやいやいや上海・黄浦江上流で豚がたくさん死んだじゃないか」と思うかもしれないが、あれらの豚からはH7N9が検出されていないというニュースが流れている。

(Yahoo News)
Chinese toll from new bird flu rises to 9 cases, 3 dead

(国内ニュース)
鳥インフルH7N9型、WHOは「感染源がブタの可能性も否定できない」―中国メディア
上海市動物疾病コントロールセンターは1日、中国農業部獣医局と上海市農業委員会の求めに応じ、黄浦江の上流地域から大量に漂流してきた豚の死骸から抽出・保管した34体のサンプルを対象とした鳥インフルエンザの検出検査を行った。この結果、鳥インフルエンザウイルスは発見されなかった。

また昨日のテレビ報道では、感染者のひとりは市場の鶏肉売り場で働いていたというもっともらしい情報をながしていたが、テレビ画面に写ったその市場の様子を見ると、ケースに入れられた鶏は顔色も良く(笑)、ぴんぴんして元気そうだった。もともとH7タイプは弱毒性なのでそのせいかもしれない。

感染ルートはほんとうに鶏ないし豚由来なんだろうか?という疑問がわく。実際に人が罹患している訳だから、科学的に説明のつく感染ルートはあるはずなのだが、いまのところわかっていない。これが1番目の不自然。


【不自然その2:感染がいきなり広範囲で始まっている】

こちらの地図を見ていただきたい。上海周辺に3つのピンが立っていて、それぞれがH7N9の感染例を示している。


http://healthmap.org/promed/

しかしながら、これがものすごく不自然だ。普通に報道を見ていると気づきにくいのだが、これらの3点の距離は、東京・名古屋間ほどもあるのだ。A/H1N1のパンデミックはメキシコシティのスラム街で始まったが、極初期の感染者は狭いところに居たことがわかっている。そしてそこから世界に広まって行った。

これだけ広範囲に広まっているなら、もっと感染者の数はたくさんいても良いはずなのだが、まだぽつぽつとしか広まっていない。感染者の数が把握しきれていないのか。あるいは最初の感染者が2週間も隠蔽されていたから、もっと感染者がたくさんいるのだがまたも情報統制されているのか。これが2番目の不思議。


【不思議その3:強毒性になるには変異の時間が必要】

不思議その1にも書いたが、H7タイプはもともと弱毒性のはずである。

「鳥インフル 中国で死者 H7N9型、弱毒性なのになぜ?」
「塩基配列をみると、H7N9型は弱毒型で、感染しても呼吸器の疾患にとどまるはず。なぜ死亡に至ったのか理由が分からない」。国立感染症研究所インフルエンザウイルス研究センター長の田代真人氏は、首をかしげる。”
強毒性の形質を得る為には変異を繰り返す必要があり、そのためにはいくらインフルエンザの変異が早いとは言え時間がかかるし、変異の過程で動物などの大量死が起こるので人間側も気がつくと思われる。

それが今回は、いきなり強毒性のウィルスが、いきなりぽこっと産まれてきた。おかしい。ものすごく不自然だ。まるで誰かがうっかり毒の瓶をひっくり返したみたいな印象。

腑に落ちないことだらけで毎日首をかしげている。また何か情報があったらみなさまにもお伝えいたします。