2013年4月12日金曜日

中国H7N9 対策策定にあたって:2009パンデミックとの共通性

私が代表を勤める(株)レックスマネジメントでは、2008年秋に新型インフルエンザ対策の策定をお客様から依頼され、以後、国立感染症研究所の研究者や大学の先生に教えを乞いながら勉強、研究、対策作りを行なってきた。

当初は何をどうしたら強毒型H5N1新型インフルエンザに対抗できるものやらさっぱりわからず、しばらく暗中模索していたのだが、あるときパッと眼前が開けるようにモノゴトの整理がついて、楽ではないものの対策は可能だということに気づいた。インフルエンザはけっきょくというか、やっぱりというか、どこまで行ってもインフルエンザである。

そのときの経験から言うと、今回もやるべきことに本質的な違いはないと考えている(対策レベルの違いは当然ある)。今日からそれをお伝えして行こうと思う。

まず最初に、A/H1N1パンデミックとの、現時点での共通性について述べておきたい。

共通点(1):初期の感染は十分な治療が受けられない層で起こる。

前回パンデミックの時は、初期の感染はメキシコシティーの貧困層のなかで起こった。メキシコは国民全体の約50%が年収200ドル以下、さらにその半分の人たちは年収100ドル以下の収入しかないと言われている。

これらの人々が仮に病気になって高熱を出しても、毎日の収入が途絶えるとその日から家族が飢えるので仕事に出続ける。しかも病院に行くと数百ドルの治療費がかかるので、まともな治療も受けずに、である。A/H1N1のときに、初期の患者の死亡率が高いのはこういう背景があった。発生当初の死亡率は95%と言われている(文藝春秋2009年7月号記事より)

日頃から栄養状態が悪く、免疫レベルが低いであろうと想像される人々が新しい型のインフルエンザに罹ったらどうなるか、素人でも想像がつく。そして実際その通りになった。広まるにつれて政府も広報に力を入れ、人々は病院に行くようになり、全世界に広まるころには死亡率は通常の季節性インフルエンザよりも低くなっていた。

さて、今回はどうか。

関西福祉大学・勝田先生のブログ「H7N9型鳥インフルエンザ感染者の社会的属性から見えてくるもの」から引用させていただく。
今回感染者となっている階層は、症状発生時の認識・知識レベルにも懸念すべきものがある。上海での死亡患者が働いていた市場で取材した毎日新聞記者は「鳥インフルエンザなんて名前を聞いたこともない。風邪をひいて死ぬなんてよくあることだ。心配なんかするわけがない」という信じられないコメントを引き出している。さらに、これらの層は医療機関に受診してもわれわれの想定外の扱いを受ける可能性もある。たとえば上海第五人民病院での死亡例では、最初の2日間、生理的食塩水の点滴だけで帰宅させられている。
ここ数日、中国国内の報道を読んでいると、同様にかなり詳しい罹患〜治療の過程が書かれているものがあるのだが、ほぼ同様である。

熱が出ても病院に行かない。高熱が出て2日も3日も経ってタミフルも効かない時期になってようやく病院に行き対症療法を受けて帰って来る(おそらく解熱剤か何かをもらうのだろう)。その後、重篤な肺炎を起こして呼吸が切迫したあたりで初めて集中治療室に担ぎこまれるが手遅れ。そのような記事をいくつか読んだ。これが共通点その(1)。


共通点(2):感染症対策は後追いになりがち

今回もPreventive・防御的なアクションを取ることの難しさが浮き彫りになっているように思う。いまのところヒトヒト感染が起こってないとのことだが、だとすれば感染源はほぼ豚か鳥に限られるので、そこで初期の対策はいろいろやれたはずなのだ。

感染症は広まってみないと現象として捉えられない。その難しさは重々承知している。中国政府の対応を批判するのは簡単なのだが、それでも「何かがわかった」時点で取れる対策はどんどん実施していかないと、どんどん後手に回ることも事実である。

WHOは中国政府の対応を「模範的」と持ち上げていたが、反面、情報統制にやっきになる政府のアクションも徐々に報道が増えてきている。対策の後追いはしばらく続くだろう。


そして以下は推測:

推測(1)軽症患者がたくさんいる。

おそらく軽症ですんだ患者がたくさんいる。医療費にお金を払わない/払えない層で起こっているという事実を鑑みるに、病院に行くこともなく治ってしまった人が相当数いるはずである。実際前回のパンデミック発生時のメキシコでも、同様の事情で実際の患者は数倍〜10倍いるだろうと指摘する専門家は多くいた。

推測(2)動物の間で感染拡大している。

ヒトヒト感染が起こっていないのに、これだけ広範囲・散発的に感染が起こると言うことは、かなりの家畜・家禽・野鳥のあいだでH7N9が感染拡大しているだろう。

感染ルートをたどり、感染源を突き止め、それを封じ込めるためのProactive・率先した行動を起こす。初期のアクションについては、やはり感染症対策の原則が重要であることがわかる。

さて、現状がある程度わかったところで、われわれは次に何をすべきか?

また時間を見てアップします。

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